伊藤哲司の「日々一歩一歩」

ここは、茨城大学で社会心理学を担当している伊藤哲司のページです。日々の生活および研究活動で、見て聞いて身体で感じることなどを発信していきます。

命の話

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 研究生などの留学生たちと週に1回開いているゼミでは、時事問題を扱い新聞記事を読んでいます。日本の今の問題を日本語の新聞で読むというのは、留学生たちにとってはなかなか大変なのですが、大学院も目指そうという学生たちなので、それぐらいはできないとと思って取り組んでいます。

 6月23日は沖縄慰霊の日。そこで今回は、「へいわ」をテーマにした沖縄の子どもの詩を2編、ちょうど東京新聞に載っていたのを見つけたので、それを読んでもらいました。シンプルに平和を願い、戦争をやめない大人たちへのメッセージでもあると思いました。それなら私自身がかつて書いた文章も呼んでらもらおうと、プリントして渡しました。昨年3月、PTA会長として小学校の卒業式で読み上げた祝辞。テーマは「命」です。

 そのとき聞いてくれた息子も含めた子どもたちの心にどう響いたのかはわからないのですが、小学校の校長先生はじめまわりの大人たちにはわりと好評でした。今日読んでくれた留学生たちも、少しは何か感じるものがあったようです。ちょっと気恥ずかしいのですが、下に記します。

  (写真は、5月のものですが、「命」を感じさせる麦畑)

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 みなさん、ご卒業おめでとうございます。ついに小学校生活を終えるときがきましたね。今どんな気持ちで、この卒業式に臨んでいるでしょうか?

 12歳になったみなさん、ずいぶん身体も大きく立派になりました。さて、小学校を卒業していくみなさんに、少しだけ「命の話」をしたいと思います。みなさん、みなさんの最初の最初の始まりは何だったか、知っていますか?

 私たちはみな、最初は小さな小さなたったひとつの受精卵でした。その大きさは0.1ミリぐらい。重さは3/1000000グラムほど。針の穴よりも小さくて、目にも見えないぐらいのちっぽけな存在でした。そしてお母さんのお腹の中で約10ヶ月間、身長は50センチぐらい(約5千倍!)、体重は2000グラムから3000グラム前後(約10億倍!)にまで成長して、この世に生まれてきたのです。

 さて、みなさんが生まれてきたときは、どんなふうだったのでしょう? みなさん自身はおそらく覚えていませんね。でもお母さんやお父さん、あるいはみなさんを育ててくれた人たちは、きっとよく覚えていますよ。ちょっと気恥ずかしいかもしれませんが、今日家に帰ったら、「僕が生まれたときはどうだったの?」「私が生まれたときどんなだった?」と、ぜひ聞いてみてください。そこにはまだ、赤ん坊で一人では何もできなかった自分がいるはずです。

 最初はたった1つの受精卵。それが細胞分裂して成長し、人間の赤ん坊になって生まれてくるその変化は、とても驚くべき神秘的なことでもあります。もちろん生まれてからも、みなさんは本当に大きく成長しました。小学校1年生として入学したときに比べても、今のみなさんは大きくて、とても立派です。今は自分でもいろいろなことができますね。それにみなさんは、それぞれ一人一人名前をもった自分です。隣にいる友達と取って代わるなんてことはできません。その他ならぬ自分が、長い長い人類の歴史のなかでこの時代に今ここにいるということ自体が奇跡なのです。

 だから私たちは、文字通り「かけがえのない存在」です。だから、自分の命が大切なんです。自分の命が大切だということは、まわりの人の命も大切だということです。そして、自分を支えてくれる家族や友達との関係も、とても大切なのです。

 みなさんはもう、小学生に戻ることはありません。4月になれば中学生。勉強ももっと難しくなるでしょう。いよいよ大人の入口に立つことになりますね。これからまだ様々なことがあるでしょう。楽しいことや嬉しいことばかりではなく、悲しいことや辛いこともあるに違いありません。

 でも、生きていることは、それだけで素晴らしい。今ちょっと辛いなと感じたとしても、生きていること自体、たいへん意味のあることです。自分を大切に、そしてまわりの人たちも大切に、これからの人生をしっかり歩んでいってください。みなさんを引き続き温かく見守り、応援してくれる人がたくさんいます。みなさんは、その期待にも応えて、まだまだ学ばなければならないことがたくさんあります。学ぶことで私たちは大きく成長することができます。学ぶことに終わりはありません。学ぶことはきっと、一生涯続きます。

 もう一度、言います。小学校卒業おめでとう。可能性に満ちた若きみなさんの前途に、心からエールを贈ります。

                2013年(平成25年)3月19日 PTA会長 伊藤哲司