伊藤哲司の「日々一歩一歩」

ここは、茨城大学で社会心理学を担当している伊藤哲司のページです。日々の生活および研究活動で、見て聞いて身体で感じることなどを発信していきます。

「聞き書き」という継承の方法

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 福島県双葉郡富岡町を離れて生活している若者たちが、同郷の年長者の語りに耳を傾けて聞き書きをする次世代継承プロジェクト「おせっぺとみおか」が、東京・八王子セミナーハウスで2日間にわたって開かれました。中高生たちが「自ら育った地域の歴史・風と、先人たちの教えなど有形無形の財産を学び」、「故郷に脈々と息づいてきた『暮らし』を継承する行為から、自らの生活を考え、将来を生き抜いていける力を養うこと」を目的とした企画です。
 私はオブザーバー的な参加で、そのなかではわりと自由に見ていられる立場でした。まず、民俗学の先生による「町、暮らしを伝えるとは」という講話があり、その後「聞き書き甲子園」などの取り組みをリードしてきたNPO法人の方による聞き書きの具体的な進め方や注意点などについての講習がなされました。その内容はわかりやすく、普段大学でインタビューの方法論等を教えている私にとっても大いに勉強になる内容でした。

 そして2日目、語り手となる富岡町在住だった年長者2人それぞれにインタビューが実施されました。その間も、社会学などの先生がサポートするという手厚さで、丁寧な聞き書きができるよう、周到に進められていきました。もちろん初めてこうしたことに取り組む若者たちですから、上手くいっていないところも垣間見えてきます。それも含めての経験ということになるのでしょう。2日目午後は振り返りが行われ、聞けたこと、聞けなかったことの整理が行われました。最後にインタビューをした若者の1人が、「自分のふがいなさに気づいてしまった……」とちょっと泣き出しそうな表情を見せていましたが、ああこれは本物だなと思いました。いい加減に取り組んでいたら、そんな感想は出てきませんから。

 この聞き書きという方法、今すぐにそこに戻って生活再開をできない故郷の『暮らし』を見失わないための貴重な機会になっていくのだなと思いました。いつ故郷に戻って生活できるのか見通しが立たないなか、しかし10数歳まで確かに自分もそこで生活をしていたという記憶を大切にし、年長者たちの経験の語りから歴史や文化、ひいてはそこでの「暮らし」を継承していく。それは言うまでもなく、かけがえのない機会です。

 今回で終わりではなく、9月にもう一度同じメンバーで続きがあります。そして年度末までに聞き書きのレポートがまとまる予定。企画には大学院生たちもサポートに入り、いい感じだと思いました。インタビュアーになっている若者たちが、今回4人だけと少ないのだけがちょっと残念ではありますが、ここでいい成果が出せれば、これ自体が継続させられるでしょう。9月も続けて参加させていただいて、またそこから私自身も、しっかり学びたいと思います。